社長業務を分割する手順を具体例を用いて解説

前回のコラムで、社長の業務はどんどん他者に分担するべきだと主張しました。

まずは「社長の業務を10個のタスクに分割すること」がファーストステップでしたが、その10個に分けるという作業が難しいという方もいらっしゃるでしょう。

この記事は前回のコラムの補足として、社長業務を分割する手順を「建設業の見積もり作業」を例として解説します。

目次

建設業の社長がやっている見積もり作業を分割する手順

construction

社長自ら手と頭を動かし、見積もり作業をやっている建設業の会社も多いのではないでしょうか?

しかし、「見積もり業務は社長にしかできない」と考えているのだとしたらそれは思い込みであり、厳しい言い方をすれば「やり方を教えていないだけ」です。

見積もり業務は他の社員に任せて、社長は社長にしかできない業務に時間を費やした方が、事業全体がうまく回り始めるでしょう。

見積もり作業を分解する手順は以下のとおりです。

手順①思い込みを捨てる

見積もり作業に限った話ではありませんが、まずは「この仕事は自分にしかできない」という思い込みを捨てましょう。

思い込みを捨てたうえで、この業務を他者に任せた場合は「どこが問題になってできないのか」を分析することが大切です。

建設業の見積もり作業は、以下の手順で進めるのではないでしょうか。

  1. 既存の図面から積算業務を行い、材料ごとの単価を出す
  2. 社内の単価表に基づき単価をいれて、労務費や諸費用を算出する

もちろん、このようなツーステップで済む単純な業務ではないことは承知しています。

  • 長年の経験と平面図面から立体を想像するイメージ力が必要
  • 現調にいけば見てわかるが、それを行かずにリモートにて画像や動画で現地の様子を調べる眼が必要

上記の能力は、長年の経験と職人ならではの勘が必要である。

それが懸念材料となって「この仕事は自分にしかできない」と考えているのではないでしょうか?

手順②積算業務をマニュアル化する

長年の経験と職人ならではの勘が必要な積算業務を誰かに託すためには、できる限り業務をマニュアル化する必要があります。

マニュアル化するということは、仕組みを作るということです。

仕組みを作ること自体はそれなりに労力がかかりますが、仕組みが出来上がってしまえばある程度誰でもその業務を担当できる状態が作れるので、組織全体の能力が底上げされることになります。

例えば、以下のような手順のマニュアルを作れることが考えられます。

  1.  材料や寸法など図面で表現されているもののみ抽出してもらう
  2. 「〇〇の場合は✕✕」というように、想定できるパターンの基準をあらかじめ設定しておいたうえで、 不明点や不足箇所は質問してもらう
  3.  現場の経験値に基づくところはその都度相談してもらい、判断を仰ぐ

この手順をに沿って業務を進めることで、次第に2までは何も言わなくても1人で進められるようになるでしょう。

これまで全てを社長が手掛けていた業務を「最終確認だけ社長がやる」というフェーズに進められるだけでも、社長は膨大な時間を確保できるのではないでしょうか?

手順③求人を出す

そもそもその業務を任せられる社員がいない場合は、求人を出す必要があるでしょう。

  • 現場のことを知っていて、図面を読み取る力がある人材なんてなかなか見つからない
  • 見つかったとしても人件費が高騰する

以上の2点を懸念されるかもしれませんが、この問題は以下の手順でクリアできるはずです。

その業務に本当に必要な能力が何なのか見極める

積算業務をおこなうのに、本当に必要な能力は以下の2つのうちのどちらでしょうか?

  1. 現場を知っていること
  2. 積算する図面を読み取れること

積算業務はデスクワークなので、本当に必要で優先すべき能力は「積算する図面を読み取れること」のはずです。

現場のことは採用する段階で知らなくても、あとから教えれば覚えられます。

全てが揃った人材を探すのではなく、どうしても必要な能力を持った人材だけに焦点を絞ることで、人材を確保できる確率は上がり、人件費も収まるはずです。

また、教える余地がある人材を採用することで、既存社員の育成スキルが高まるという副産物もついてくるのです。

欲しい能力を持った人材を惹きつける求人記事を出す

募集記事の書き方に頭を悩ませる必要はありません。

貴社と同様の募集を先に出している会社の募集記事を真似ればいいのです。

他社の募集記事に目を通すことで「積算業務をこなす能力がある人材」を惹きつける求人記事の書き方がわかるはずです。

自身が仕事を探している求職者になったつもりで、人材派遣会社に登録されている求人記事に目を通してみましょう。

マルチタスクが引き起こす弊害

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社長自らたくさんの業務を手掛けているマルチタスクの状態が、実は大きな弊害を引き起こしています。

そもそも人間の脳は、マルチタスクはできないような構造になっているのです。

いくつもの業務を同時進行でこなすことは一見手際よく作業をこなしているように見えますが、脳はそれぞれの事象の間をいったりきたりせわしなく動いている状態になります。

マルチタスクで業務をこなすことで脳に負荷がかかり、集中力が低下し、ストレスホルモンが分泌されやすくなるといわれているのです。

ある研究では、マルチタスクは生産性を最大40%下げるともいわれています。

業務を分割し、シングルタスクに集中することで以下のメリットが期待できます。

  • 時間の無駄が減り、作業が効率化する
  • 1つの業務に集中できるので見落としが減る
  • ストレスが減る
  • 集中力が上がり、エンジンがかかった状態をキープできる

社長の業務はどんどん他者に分担し、経営やサービスの改善、従業員とのコミュニケーションに集中できる環境を作っていきましょう。

 

須賀 孝太郎
おおたかの森ファーム 代表取締役
東京工業大学工学部を卒業後、工業デザイン事務所にてデザイン業務を経て、家業である税理士事務所に入社。そのノウハウを生かし経営コンサルティング おおたかの森ファーム株式会社 を設立。ボクシング好きの三児の父。
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