国内にある中小企業の大部分はオーナー=代表取締役、もしくはその親族という構図が一般的です。
株式会社の本来の仕組みは利用せず、「自分による自分のための会社」というシンプルな構図です。
立ち上げメンバーや経営意思決定権のある役員ですら、少数株主にとどまります。
彼らは基本的には、対価として給与や報酬を得るために会社に属しているのです。
この記事では、そのような少数精鋭で運営している会社が最初に経営戦略を立てるときの基本的な考え方について解説します。
まずは、社長自身が自分の会社をどうしたいのかを明確に決める
我々が関与するクライアントに対しては、まずは「代表取締役=オーナーが自身の会社をどうしたいのか」を明確に決めることから始めます。
- 社員が働きやすい会社にしたい
- お得意様に満足いただきたい
- 仕入れ先を救いたい
上記のような目標や理想を描くことも確かに大切です。
しかし、まずは「代表取締役=オーナー」が持つ絶対的権限と絶対的な利権を、どのように利用したいかを明確にすることから始めるべきです。
ただし、赤字が多く利益剰余金のない会社は、それどころではないはずです。
まずは黒字を出し、会社の価値を創業時より高めることから始めましょう。
「方針はみんなで決める」という会社の社員の本音
「みんなのための会社」
「今後の方針はみんなで決める」
社員に対して、上記のように社長から発信することは悪いことではありません。
しかし、おそらく大半の社員は少数株主である時点で、「自分のための会社」「会社の方針を自分で決める」という信念は心の底にはないはずです。
主体的に考えて動いてくれている社員は、「代表取締役=オーナーがどうしたいか」を察し、日々の業務に取り組んでくれているのでしょう。
Twitterには、上記のような一般企業の社員の声も挙がっています。
多くの会社員は「自分で方針を決めたい」という考えではなく、社長が決めた方針に共感を抱き、主体的に動くようになるのです。
事業方針の柱は、社長が目指すゴールに応じて決める
中小企業の社長に「将来的に会社をどうしたいか?」と質問すると、ほとんどの場合は下記の5つのいずれかに該当するはずです。
- 上場したい
- 親族に事業継承したい
- 他人に事業継承したい
- 他人に譲りたい(バイアウト)
- 自分の退職とともに会社も清算したい
上記の5択のどれかを選択することで、事業戦略の柱が見えてきます。
それぞれの概要を解説していきます。
① 上場したい
これは会社をおこすのであれば誰しもが一度は夢をみるはずです。
〇〇ドリーム的な構想でもあり、実際に会社を上場できるほど発展させられるのはごく一部です。
もちろん、競争に敗北すれば厳しい現実が待っています。
ましてや、創業者で上場を達成するには、並大抵の取組では実現できません。
上場をはっきりとしたゴールに設定するのであれば、まずは「オーナー=自分」というこだわりから即座に脱する必要があります。
そのこだわりを持ったままでは成長スピードが鈍化したり、良くても上場ゴールで終わってしまいます。
自社の株の価値をある程度高めたあとは、VCや投資家、士業のプロや金融のプロ、M&Aなどを効果的に利用し、自身のビジネスモデルのみを柱とし、あとはついてこれる人たちと共にフルアクセルで前進する必要があります。
上場を目標とする中小企業経営者はかなり少数派です。
上場を目的にするとなれば、このコラムの内容などとうに飛び越えた取り組みをしないと達成できないでしょう。
② 親族に事業継承したい
- 自分の名前で作った会社を子に継がせ、子の将来の生活の基盤をつくってあげたい
- 自分の作り上げた財産を、自分がいなくなった後も有効に使ってほしい
上記のような願いが込められた「親族への事業継承」は、一世代前までの中小企業経営者であれば一番多い目標値だったはずです。
この発想がメジャーだった主な要因の1つとして、日本という国が安定して経済発展してきていたことが挙げられます。
- 会社を創業して経営を安定させれば、そこから10年以上は安定した収益や収入を得られる
- そして、その知恵をしっかり後継者に伝えれば、特に思い切った事業転換をする必要がなく2代目以降も安定した成長戦略がみこめる
一世代前までは、上記のように考えるのも自然な流れだといえたはずです。
しかし、今はそんな時代・国ではなくなりました。
国の方針通りに動いても状況が悪くなってしまったり、世界情勢により必要な知識が異なってしまったり、地盤を固めるだけでは事業を安定して継続するのが難しいのです。
そんな中で子供を後継者として指名することは、もしかしたらかなりのリスク、または子どもにはキャパオーバーなタスクなのかもしれません。
親として子どものために良かれと思って事業継承しても、子どもにとって重荷となってしまう可能性があるのです。
親族への事業継承を目標とする場合、「先代が一生懸命子供が継承するための枠・箱作りをおこなう」という考え方はおすすめできません。
子どもが半人前でも、母親同伴でも、「継承者に発言権を持たせたうえでの家族会議=経営戦略」という取り組みをし、その内容を社員にも部分的に共有していくべきです。
③ 他人に事業継承したい
- 子どもとの年齢差が大きい
- 子ども本人が事業継承を希望していない
親族への事業継承を理想としていても、それができない場合もあるでしょう。
その場合は、おもいきって親族への事業継承をあきらめるべきです。
決して悲観的な意味ではなく、「事業継承=親族にするもの」という前提をとっぱらい、事業継承の対象者を他人まで拡げるのです。
他人に事業継承するには、かなり精密な計画や、業務のシステム化・パッケージ化が必要になります。
その取り組みには専門家も必要で、親族に継承する場合よりも費用や準備期間がかなりかかります。
他人への事業継承の準備をしっかりできた場合は、親族への事業継承よりもかなりレベルの高いものが出来上がります。
自身がもう忘れたころに年の離れた子どもに事業を継承するといった場合にも、苦労して他人用に作った事業継承プランをみれば、自ずと親族間の事業継承が達成できます。
親族に事業継承する場合も、本来はそのような取り組みが必要です。
しかし、いかんせんコストや時間が膨大にかかることや、親族だからこそのシンパシーや感覚的な部分で補えてしまうことから、省略されることが多いのです。
④ 他人に譲りたい(バイアウト)
昨今は、中小企業でもM&Aがメジャーになってきました。
「まさか自分の会社が売れるなんて」と、中小企業経営者のほとんどが思っているでしょう。
しかし実際には、感覚的な経営や親族に依存した会社でも、得意先の価値・入れ先の価値・製品価値などでM&Aで価値が付いたりします。
ただし、そのような企業は買う側に足元をみられがちです。
いわゆるいわくつき扱いになります。
「あそこの製品は品質は良いが、創業者社長の感覚的な作業が大部分を占めている」
「それを自身が送り込んだ人材に引き継がせてくれるかわからない」
このような不透明な要素があると買い手がおりてしまったりして、売値が下がってしまいます。
他人に譲ることを目標として事業戦略を立てれば、営業や製造主任を親族に任せない、もしくはマニュアル化などし、売却できるクオリティの製品・品質を引き続き維持できます。
他人に譲るための会社は、突き詰めれば上場するための会社の要件にもなったりするのです。
注意点として、バイアウトを目標とするのであれば、業務の中の感覚的・もしくはお付き合い的な要素を、早いうちから取り除く必要があります。
後からこれをおこなうことは、並大抵の努力では済まないでしょう。
⑤ 自分の退職とともに会社も清算したい
「自分の退職=会社の終焉」
ここまで紹介してきたゴール状態の中で、一見弱気な戦略に見えるかもしれません。
しかし、一番戦略をしっかり立てる必要があるゴール状態であり、しいては一番堅実な戦略でもあります。
会社の成長のピークに達するまでかかった時間は、そこを中間点として、会社が消滅するまで同じ時間を要するといわれています。
「自身の退職とともに会社も清算する」と決めているとはいえ、努力を重ねて成長した会社です。
いくら時勢にあわずとも、生産能力が下がろうとも、いっしょに戦ってきた仲間は簡単に見捨てられないはずです。
これを戦略とするならば、「どこに会社のピークをもっていくか」を設定しないといけません。
自身が70歳で辞めるのであれば あと30年の中のどこにピークを置き、どこからお片付けに入るのか。
お片付けは事業をおこないながら進めますので、とてもシンプルにミニマムで無駄のない会社が出来上がっていきます。
ミニマムで無駄のない会社は、昨今のような動乱の世の中においては一番強い会社のスタイルです。
言い方を変えれば、「明日外的要因で会社がダメになっても悔いのない状態の会社=無敵の会社」であるわけです。
自分でしっかり終わらせるために必要なのは、その年になったらスパッと辞めることではありません。
シンプルに洗練した無駄のない会社づくりをしていく必要があるのです。
ちなみに、自身より若いスタッフを構えることは悪いことではありません。
若いスタッフには、自社でなくても活躍をできるように、スキルを惜しみなく渡すのです。
もしかしたら、その中で優秀なスタッフが事業を継承、買収したいと言ってくるかもしれません。
まとめ
ここまでの内容は、あくまでも最初に立てるべき目標値です。
その通りになる会社は少数派であり、途中で目標が変わることもよくある話です。
しかし、これを現時点の目標値として定めることで、会社の一番長期的な計画指標ができます。
そこに中期的なプランや直近の短期的なプランを入れていくことで、短期的なプランであってもずいぶん筋の通ったものができます。
長期的な計画指標が定まるメリットは、事業戦略がはかどることだけではありません。
例えば、補助金申請も事業戦略にしっかりそったもの・融資の事業計画も補助金申請のものとベクトルの一致したものなどをスムーズに作ることができます。
作業に無駄がなくなり、従業員も意欲的に働きやすい会社となるのです。
それぞれの計画指標に対する実践的な取り組みは、また後日執筆したいと思います。
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