
一般社団法人ソフトウェア協会(以下、SAJ)では、次世代人材育成を目的とした「🔗アゲイン・アゲイン・プロジェクト」の一環として、プレイベントを開催した。
本イベントは、子どもたちにデジタル技術を活用した創造体験を提供すると同時に、保護者と子どもが同一空間で「仕事」と「学び」を共存させる新しいモデルを実証することを目的として企画されたものである。
本稿では、SAJ会員企業である 株式会社テクノロジードック の須賀として、企画・運営に携わった立場から、当日の成果、浮かび上がった課題、そして今後SAJとして取り組むべき方向性について報告する。

多様なデジタル体験が子どもたちにもたらした「負荷」と「成長」
本イベントでは、プログラミング、電子工作、AI音楽制作など、複数のデジタル体験を同時に提供した。
これらは一見すると「楽しいワークショップ」に見えるが、実際には子どもたちにとって相応の認知的負荷を伴う、密度の高い学習体験であった。
プログラミングや電子工作では、得意でない子どもが初めてデジタルに触れること自体に意義があり、苦手意識を抱えながらも自分のペースで思考の幅を広げる経験となっていた。
また、AI音楽制作では、特に小学校高学年以上の女子参加者が創作を楽しみ、テクノロジーと創造性が自然につながることで、「デジタルは難しい」という固定観念を和らげていた。
異なる思考回路を刺激する複数のプログラムが同時に存在すること自体が、SAJならではの教育的価値を形成していた。

「親の働く姿」を感じ取る、仕事と学びの共存空間
今回のイベント会場はコワーキングスペースと隣接しており、保護者がパソコンで仕事をしながら、子どもが同じ空間で学ぶという環境が自然に成立していた。
そのため、子どもたちは、プログラムや電子工作が、親の仕事で使われているデジタル技術と地続きであることを、説明ではなく体験を通して理解することができた。
これは単なる子ども向けワークショップではなく、仮想的な職場体験としても価値の高い場であった。
今後は、SAJ会員企業のエンジニアや従業員が週末に子どもを連れて訪れ、
親は仕事をする
子どもは学ぶ
同じ空間で互いの姿を感じ取る
という関係性を育むコミュニティとしての活用も期待できる。
これはソフトウェア業界における、新しい福利厚生的価値の創出にもつながる取り組みである。

発明協会との協働で浮き彫りになった「考えを言えない」問題
本イベントでは、公益社団法人発明協会 と連携したワークショップを実施した。
その中で最も示唆的だったのは、子どもたちが「自分の考えを口に出すこと」に強い抵抗を示す場面である。

特に高学年の女子や中学生になると、
輪を乱したくない
目立ちたくない
自分の考えを出すのが恥ずかしい
といった心理的抑制が強く働く傾向が見られた。
重要なのは、これは想像力や能力の問題ではないという点である。
完成した作品は独創的で、手先も器用であり、発想力自体は非常に高い。
しかし、「自分のオリジナリティを、オリジナルだと宣言したくない」
という文化的・社会的な圧力が存在しているように感じられた。
発明協会の指導員が繰り返し強調していた通り、発明の起点は「困りごと」である。
しかし現代の子どもたちは生活上の不便が少なく、さらにSNS的な共感圧力の中で育っているため、自分の困りごとや考えを表明しづらい構造に置かれている。
この気づきは、IT人材育成を担うSAJにとって非常に重要な示唆である。
技術力以前に、「自分の考えを言える」心理的安全性をどう設計するかが問われている。

発明の起点である「困りごと」を教育側が設計するという視点
発明協会との対話で最も本質的だったのは、
「現代の子どもには、発明を促すだけの困りごとが不足している」
という指摘である。
自然発生的な不便が少ない現代においては、
社会に小さな不便がある
助けを求められている
といった状況を、教育側が意図的に設計する必要がある。
これはソフトウェア開発における「課題発見」と本質的に同じであり、デジタル教育と発明教育が深く接続するポイントでもある。
今回の協働は、SAJの教育プログラムに「課題設計型教育」を組み込む可能性を明確に示すものとなった。

SAJとして今後取り組むべき方向性
本プレイベントを通じ、SAJとして以下の方向性を明確にすべきである。
- プログラミング・AI・電子工作など、分野横断的な学びの継続提供
- コワーキングと学習を融合したモデルの制度化
- 心理的安全性を前提とした教育設計の導入
- 発明協会との連携強化による「困りごとの教育化」

結びに 次回開催のご案内
本プレイベントは、SAJの会場を舞台に、
「親の働く場」と「子どもの学びの場」が自然に融合する新しい実証の場となった。
また、発明協会との協働により、現代の子どもが抱える創造性の構造的課題まで可視化できたことは、協会として非常に大きな成果である。
SAJは今後も、単なる技術教育にとどまらず、
創造性・課題設定力・自己表現力を育てる総合的な学びの場として、
ソフトウェア産業の未来を支える次世代育成に貢献していく。
なお、本プレイベントの成果を踏まえ、
「第2回 アゲイン・アゲイン・プロジェクト」を2026年2月21日(金)に開催予定である。
次回は、今回の知見を反映し、発明協会との連携プログラムをさらに発展させた内容を予定している。
詳細・参加案内については、SAJ公式サイト
(https://www.saj.or.jp/publicity/wakuwakulearning/2812/)
にて順次公開される予定である。
本取り組みが、SAJにおける次世代育成活動の継続的なモデルとして定着していくことを期待したい。


